トップ 差分 一覧 ソース 検索 ヘルプ ログイン

カルボランを基盤とした共役系分子・高分子の構築

 カルボランを基盤とした共役系分子・高分子の構築

カルボラン(C2B10H12)は有機成分である炭素と無機成分であるホウ素が分子レベルで複合化した元素ブロックであり、耐熱性材料や医療材料として多くの研究がなされてきました。また、剛直で嵩高い構造と球面上に非局在化した骨格電子に由来する高い安定性を併せ持ちます。近年では、このカルボランを共役系に導入することで種々の特異な光学特性が誘起されることが明らかになっており、光学材料のビルディングブロックとしての注目が高まっています。
 我々は、カルボランが共役系に与える幾何学的・電子的効果の解明及び、これを利用した新奇光学材料の創出を目的に研究を進めています。特にo-カルボランを修飾した共役系分子は、分子の運動性に由来して、溶液状態では発光が消光し、固体・フィルム・凝集状態において強い蛍光発光を示す凝集誘起型発光(AIE)が発現することを世界に先駆けて発見しました。このカルボランの運動性に起因した特徴を用いれば、有機色素の水中での発光や固体発光材料などへの応用が期待できます。当研究室ではこれを応用して、固体状態でのみ発光性を示す高分子薄膜(文献1)や、フルカラー発光体(文献2)、膨潤状態によって発光のON・OFFをスイッチングできるAIEゲルの開発などを達成しました(文献3)。
1) Kokado, K.; Chujo, Y. Macromolecule 2009, 42, 1418-1420.
2) Kokado, K.; Chujo, Y. J. Org. Chem. 2011, 76, 316-319.
3) Kokado, K.; Nagai, A.; Chujo, Y. Macromolecules 2010, 43, 6463-6468.

 ねじれ型分子内電荷移動(TICT)による固体発光材料

ピレンは代表的な多環芳香族炭化水素であり優れた発光特性を有しますが、ピレンをカルボランに直接結合させた際、カルボラン部位への電荷移動(Charge transfer, CT)に由来した強い発光が期待できます。加えて、発光メカニズムが芳香環とカルボランの二面角によって変化することを明らかにいたしました(文献1)。つまり、o-カルボランの炭素−炭素間結合とピレンとの二面角φが0°に近い平行の状態からでは局所励起状態(Locally-excited state, LE)からの発光が得られ,φが90°に近い垂直にねじれた状態からではねじれ型分子内電荷移動(Twisted-intramolecular charge transfer, TICT)による発光が起こります。この分子回転が結晶状態でも起こることを初めて明らかにし、カルボラン自体がコンパクトで球状をしていることから,凝集系でも回転できるのだと予測されました(文献2)。この回転運動を制御することで、固体状態における発光量子収率が99%以上という極めて優れた固体発光特性を示す分子を得ることに成功いたしました(文献1,3)。
1) Nishino, K.; Yamamoto, H.; Tanaka, K.; Chujo, Y. Org. Lett. 2016, 18, 4064-4067.
2) Naito, H.; Nishino, K.; Morisaki, Y.; Tanaka, K.; Chujo, Y. Angew. Chem. Int. Ed. 2017, 56, 254-259.
3) Naito, H.; Nishino, K.; Morisaki, Y.; Tanaka, K.; Chujo, Y. J. Mater. Chem. C 2017, 4, 10047-10054.

 カルボランによる刺激応答性を示す機能性材料

o-カルボランを用いた発光材料は高輝度発光を示す一方で、様々な刺激に対して発光色が変化する機能性材料としてもその応用が可能であることを報告しています。例えば図1のように、室温と凍結状態の温度の違いから、o-カルボランとπ共役系ユニットとの配向を変化させることによって発光メカニズムを制御することが可能です。その結果、赤色発光から青色発光のように発光色を劇的に変化させることができます(文献1)。
 また、π共役系ユニットの両端にo-カルボランを修飾した分子が多感応刺激応答性を有することを明らかにしました。この分子は様々な溶媒を取り込むことで分子配置が変化し、発光色の異なる結晶を形成しました。さらに、それぞれ擦る、加熱するなどの異なる刺激によっても多彩な発光色変化を起こしました。このように、分子構造の設計の仕方によって機能性を持たせることも可能です。(文献2)。
1) Nishino, K.; Yamamoto, H.; Tanaka, K.; Chujo, Y. Org. Lett. 2016, 18, 4064-4067.
2) Naito, H.; Morisaki, Y.; Chujo, Y. Angew. Chem. Int. Ed. 2015, 54, 5084-5087.

 カルボランの特徴を活かした多機能性材料

我々はo-カルボランを用いた発光材料において、発光色のチューニングに成功しています。図1のようなo-カルボランの炭素とホウ素の両置換位置にπ共役系ユニットを修飾した分子では、溶液状態と水凝集状態で発光部位を切り替えることができます。この分子を用いれば、水含有量を変化させることで青色から橙色まで幅広く発光色を調節することや、白色発光を単一分子で出すことも可能です(文献1)。
 また図2のようにアセン部位をベンゼンからナフタレン、アントラセン、テトラセンへと変化させたジ-o-カルボラン修飾アセン誘導体を合成しました。その結果、環の数が増大するに従ってπ共役が拡張し、紫外から可視光、近赤外へと非常に幅広い波長領域において発光色が異なる固体発光材料の開発に成功しました。特に、o-カルボランの嵩高さと強い電子求引性によって光安定性が付与され、テトラセンにおいても安定に存在できることが大きな利点です(文献2)。
1) Tominaga, M.; Naito, H.; Morisaki, Y.; Chujo Y. New J. Chem. 2014, 38, 5686-5690.
2) Naito, H.; Nishino, K.; Morisaki, Y.; Tanaka, K.; Chujo, Y. Chem. Asian J. 2017, 12, 2134-2138.

 芳香環縮環型カルボラン

また、カルボランの誘導体の一つであるベンゾカルボランは分子内に共役平面を有することから、カルボランの特徴を活かした共役系の構築に有用です。私たちの研究室で開発された芳香環縮環型ベンゾカルボランは分子内に非常に高い平面性を持ち、カルボラン部位の電子求引性によってエネルギー準位がコントロールされることから、新たな電子材料に応用可能であるとして現在精力的に研究を行っています。