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アップコンバージョン

光反応は時空間を制御しながら反応を進行させ易い一方で、多くの有用な反応は紫外光などの高いエネルギーの光照射を必要とする。そのため、励起光によるマトリックスの分解や副反応、励起光のエネルギーの減衰が起こる可能性がある。我々は、今まで光が届かなかった部位で光反応を起こせないか、ということで研究を始めた。その解決策としてアップコンバージョン色素の利用を考えた。アップコンバージョンとは、長波長光を短波長に変換する技術である。アップコンバージョン色素を光反応剤と共存させることで、透過度の高い長波長光を励起光として用いることができると考えられる。そのため、励起光の減衰や副反応が無く、必要な点で物質の励起が可能となるのではないかと考えられる。(図 1) そして、特にアップコンバージョンを生理環境下で起こすことが可能となれば、低侵襲な光医療への利用へとつながると期待される。

図1. アップコンバージョンによるマトリックス深部での光反応の模式図.

三重項−三重項消滅を経由するとレーザーを使わなくてもアップコンバージョンを起こすことが可能である。本研究では、三重項−三重項消滅を経由したアップコンバージョンを行う水溶性発光体の開発を目的とした。可視光を紫外光にアップコンバージョンする分子の探索を行った。その結果、増感剤としてオクタエチルポルフィリンの白金錯体 (PtOEP)、発光物質としてアントラセンが効率よくアップコンバージョンを起こすことが分かった。537 nmの可視光を照射すると380 nmから始まるアントラセン由来の蛍光発光が得られた。(図 2 & 3) 次に、これらの分子を用い、水中でアップコンバージョンを起こすことを試みた。水溶性の確保と分子の集合のために、世代数2のかご型シルセスキオキサン (POSS) 核デンドリマーを基盤分子として用いた。POSS核デンドリマーは分子サイズが小さいため、内部で距離依存性の高い電子移動反応でも効率的に進行させることが可能であると考えられる。実際、アントラセンとPtOEPを取り込ませたデンドリマー複合体は、水中においても可視光を紫外光にアップコンバージョンした。さらに、得られた水溶性アップコンバージョン色素が、溶液のpHや溶存酸素量など、周囲の環境に応答したアップコンバージョンを起こすことが分かった。

図2. アップコンバージョンを起こす分子の構造とエネルギー準位図.

図3. 可視光から紫外光へのアップコンバージョン.

参考文献

1. Tanaka et al. Chem. Commun. 2010, 4378-4380.