トップ 差分 一覧 ソース 検索 ヘルプ ログイン

人工物模倣生体関連材料

 MRI造影剤の100倍高感度化

 POSSは剛直な分子であり、プラスチックにフィラーとして添加すると耐熱性や剛直性を向上させることができます。このようなPOSSを核に有するデンドリマーを合成し、常磁性イオンであるGd3+を錯体化させました(図2)。すると、高感度でMRIで像が得られることが分かりました。これまで分子量を大きくすることで分子の運動性を低下させ、高感度化させるというのが普通の戦略でしたが、剛直な骨格導入によっても同様の高感度化が達成できることが明らかとなりました。分子運動の低下では同時に横緩和も加速され、陽性造影能が低下してしまいますが、分子の剛直性増加という本戦略ではそのようなロスは抑制され、より効率よく高感度化が可能であることが示唆されました。
 具体的には、世代数が1.5から3.5までのポリアミドアミン骨格をデンドロンとして有するPOSS核デンドリマーを合成し、Gd3+と錯形成を行いました。それぞれの錯体の溶液を7 TのMRIでT1強調画像を撮像した所、DOTAやDTPAという従来の市販品の錯体よりも10から100倍低濃度でも明瞭なコントラストを得ることができました(図3a)。また、緩和度やτR, τMの算出より、POSS核からGd3+が遠ざかると感度向上の効果が低下することから、POSSの剛直性が緩和能向上に寄与していることが示されました。
 さらに、POSS−Gd錯体は肝細胞を用いた細胞毒性試験やマウスによる急性毒性の評価より、従来品より低毒性であることが分かりました(図3b)。以上のことから、生体への負荷の低い造影剤としてPOSS−Gd錯体は働くことが分かりました。

図2. POSS核デンドリマーによるGd造影剤

図3. (a)7TのMRI装置によるT1強調画像. (b) 正常肝細胞による細胞毒性実験.

  • Tanaka, K.; Kitamura, N.; Naka, K.; Morita, M.; Inubushi, T.; Chujo, M.; Nagao, M.; Chujo, Y. Polym. J. 2009, 41, 287

 光の高エネルギー化(アップコンバージョン)が可能なデンドリマー

 光反応は時空間を制御しながら反応を進行させ易い一方で、多くの有用な反応は紫外光などの高いエネルギーの光照射を必要とします。そのため、励起光によるマトリックスの分解や副反応、励起光のエネルギーの減衰が起こる可能性があります。我々は、今まで光が届かなかった部位で光反応を起こせないか、ということで研究を始めました。
 その解決策としてアップコンバージョン色素を開発することを目指しました。アップコンバージョンとは、長波長光を短波長に変換する技術であり、アップコンバージョン色素を光反応剤と共存させることで、透過度の高い長波長光を励起光として用いることを想定しました。そのため、励起光の減衰や副反応が無く、必要な点で物質の励起が可能となるのではないかと考えました(図 1) 。そして、特にアップコンバージョンを生理環境下で起こすことが可能となれば、低侵襲な光医療への利用へとつながると期待しています。

図1. アップコンバージョンによるマトリックス深部での光反応の模式図.

 有機EL素子では電圧をかけすぎると励起子が対消滅できず、三重項−三重項消滅(TTA)という過程を経て効率が低下してしまうことが知られています。一方、このTTAを経由するとレーザーを使わなくてもアップコンバージョンを起こすことが可能であることに着目しました。
 まず、TTAを経由したアップコンバージョンを行う水溶性発光体の開発を行いました。可視光を紫外光にアップコンバージョンする分子の探索を行った結果、増感剤としてオクタエチルポルフィリンの白金錯体 (PtOEP)、発光物質としてアントラセンが効率よくアップコンバージョンを起こすことが分かりました。537 nmの可視光を照射すると380 nmから始まるアントラセン由来の蛍光発光が得られました(図 2 & 3)。
  次に、これらの分子を用い、水中でアップコンバージョンを起こすことを試みました。水溶性の確保と分子の集合のために、世代数2のかご型シルセスキオキサン (POSS) 核デンドリマーを基盤分子として用いました。POSS核デンドリマーは分子サイズが小さいため、内部で距離依存性の高い電子移動反応でも効率的に進行させることが可能であると考えられ、実際、アントラセンとPtOEPを取り込ませたデンドリマー複合体は、水中においても可視光を紫外光にアップコンバージョンすることができました。さらに、得られた水溶性アップコンバージョン色素が、溶液のpHや溶存酸素量など、周囲の環境に応答したアップコンバージョンを起こすことも分かりました。

図2. アップコンバージョンを起こす分子の構造とエネルギー準位図.

図3. 可視光から紫外光へのアップコンバージョン.

参考文献

  • Tanaka et al. Chem. Commun. 2010, 4378-4380.

 量子収率100%を超える光駆動薬剤放出材料

 有機−無機ハイブリッド材料は、その安定性のため一般的には作製後の利用が困難です。外部刺激により、分解するポリマー成分を含むハイブリッドを合成することによりハイブリッドの再加工及び機能付与が可能になると考えられます。光は、透明なハイブリッド材料中を内部まで侵入できるため、外部刺激として有効です。光解離性基の反応性と放出挙動を単分子で確認し、その単分子誘導体をモノマーとする高分子の合成、ハイブリッド化及び光照射による分解を利用した応用例を検討しました。
 ここで、集積回路の作製時には光照射により酸を発生させる、さらにぞれを増幅する反応が使われています。そこで、この光酸増幅機構を示す分子を高分子化し、1つの光子から複数個の酸性分子を放出する機構を構築しました。
 UV照射によりメタンスルホン酸を放出する光酸発生剤を合成したところ、溶液中において、光脱離基の解離を確認しました。TTFを用いた溶液中及びフィルム中において、酸を放出していることを確認しました。効率を調べると1つの光子から12個の酸分子が放出されていることから、光反応の効率はおよそ1200%でした。
 この高分子をハイブリッド化し、UVを照射すると自動分解が起こり、光照射後でも薬剤放出が起こり続けました。あるタイミングで光を照射することで、あとは自動で薬剤の除法が起こるシステムを構築することができました。
文献

  • Tanaka, K.; Ohashi, W.; Okada, H.; Chujo, Y. Tetrahedron Lett. 2014, 55, 1635-1639.
  • Okada, H.; Tanaka, K.; Ohashi, W.; Chujo, Y. Bioorg. Med. Chem. 2014, 22, 3435-3440.